「ここに来ての起動実験の失敗はまずいぞ、碇。このままでは間にあわん」
「………問題ない。初号機がある」
「だが、パイロットはどうする?」
「予備を使う」
「いいのか?」
 ゲンドウは「ああ」と頷くと、電話に手を伸ばした。
 外線につないで一連の番号を入力しようとする。だが、途中で指がとまった。
「どうした?碇」 
「まだ、学校に行っている頃合いだ…手紙にしよう」
 だが、ペンを取ろうとして困ってしまった。
 零号機のエントリープラグをこじ開けようとした際の火傷で、しばらくは手が使えない。包帯でぐるぐる巻きになっていた。
「おい碇、無理せずにワープロでも使ったらどうだ?なんなら代筆してやってもいいぞ」
 冬月のからかうような口調には、答える必要を感じない。
 電子メール全盛の時代が来ても、人の手による手紙はなくなることがなかった。逆に、その意味を増したと言っていい。人の手で書かれた手紙でこそ、気持ちが伝わると考えられたからである。
 ボールペン、万年筆は細すぎて手に持てない。太マジックならと、人差し指と親指にはさんで、悪戦苦闘しながら、どうにか『来い』とだけ書くことが出来た。
 冬月はため息とともに呟いた。
「気持ちはわかるが、それでは伝わらないと思うのだがな」
 伝わらないどころか誤解されるぞ、とは今更言わない冬月であった。
 
 
               新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
 
                 パイロット版「運命の転輪」   たくさん作
 
 
 ふと、気がついたら全ての記憶をなくしていた。
 自分が誰なのか思い出せない。思い出したくもなかった。
 どこから来たのかわからない。わかりたくもなかった。
 どこへ行くという宛もなく、別に死んでも良いと思っていた。
 何に絶望しているのか、それすらわからないと言うのに、ただもう、自棄の感情だけが胸の内を満たしていた。
 少年はやがて、芦ノ湖畔を彷徨っているところを警察に保護された。
 家出人、行方不明者のリストが照会されたが、該当者はなし。年齢13歳〜14歳…中学2年程度の学力を持っていたことから、そう推定された。
 結局、静岡県東部児童相談所は、少年を里親へと預ける措置をとることにした。
 その際、手続きの必要から仮の名前が与えられることとなった。
『ゲンドウ』
 以来少年は、こう呼ばれることとなる。
 
 六分儀家の養子に入って数年。
 ゲンドウは、京都大学にいた。
 そこで、碇ユイと出会った。
 気むずかしいゲンドウを、誰もが敬遠していた。だがユイだけは違っていた。初めて会った瞬間からうち解けて話しかけてくる。それはまるで、旧知の間柄のようだった。
 話の流れから、やがてユイもゲンドウと似たような境遇であることがわかる。
 生まれも育ちもわからない。記憶を失って芦ノ湖畔を彷徨っていたというところをまでそっくり同じとなれば、お互いに何か関係があるのではないかと思っても不思議はない。
 自然な気安さから、二人はやがて男と女の関係となっていた。
 
「男ならシンジ、女ならレイと名付けよう」
 何故、そう思ったのかわからなかった。
 頭に思い浮かんだ、というのが正しい。かなりの強迫観念をもって、その名をつけなければならないと思った。
 今ならば、その理由もわかる。
「全ては、最初から決まっていたことなのだ」と。
 エントリープラグのユイが姿を消す寸前、何かに驚いたように自分を「いかりくん」と呼んだ。その瞬間、全ての記憶がよみがえっていた。
 サードインパクト。
 使徒との戦い。
 …碇 シンジとして生きた、14歳までの記憶である。
 自分は誰なのだ。…碇シンジ?少なくとも、碇シンジだった。
 では、眼前にいる4歳の息子は、いったい何者なのか?
 今の自分の名は、碇ゲンドウだ。
 ならば、かつて自分を戦いに駆り立てた父は、いったい誰だったと言うのか?
 サルベージの結果、蘇った妻は赤い瞳、銀色の髪の幼女となっていた。
 
「これも、シナリオどうりと言うことか…」
 ゲンドウはその娘を、綾波 レイと名付けた。
 

 
エヴァ小説は、これが初めてとなります。
とりあえず試しに書いてみた、パイロット版ですね。
連載するかどうかも決めてない、無責任な作品です。

Shinkyoの感想でございます

よくこんなネタを思いつくなぁ、と感心してしまいます。

私のより面白くなりそうですね(爆)

先が非常に気になりところです。

しかし、シンジは成長するとゲンドウみたいな容姿になってしまうか。

レイがユイになるのは納得がいくけど。

とにかく、次回に期待ですね。


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