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『私が、出撃します』
 レイの声に、発令所の時間が止まった。
 スクリーンに映し出されるレイの姿は、いつものような無表情ではなく、真摯さと決意が感じられる。
 いつも無口で、言われるままに振る舞っていたレイが、明確に意志を示して自己主張するなど、これが初めてである。少なくともリツコや、オペーレーターの3人は見たことがない。皆、そんなレイの姿に戸惑いつつもネルフの司令がどんな指示を下すかと、息をのんで待った。
「どうする?碇。パイロットである以上は、いずれは初陣を迎えねばならん。早いか、遅いかの問題だぞ」
 冬月の言も、もっともである。
 なによりも初号機…シンジに出動を命じれば、『前』と同じ事になってしまう。
 ここで、レイを出動させれば歴史は確実に変わる。
『記憶』によれば、ラミエルの武器は高出力の加粒子砲と、肉眼で視認できるほどのATフィールドである。自分の時は敵の射程内に射出されて、いきなり加粒子砲の直撃を喰らってしまったが、それも変えられるかも知れない。
「いいか?レイ」
『はい。問題ありません』
 間髪入れずに帰ってくる返事に、ゲンドウは覚悟を決めた。
「出撃を許可する。葛城一尉、レイの初陣だ。よろしく頼む」
 ゲンドウは、サングラスを輝かせながらことさら『初陣』を強調して見せた。
 この一言が無意識の圧力になって、作戦部長の葛城ミサトに慎重な構えをとらせることになる。もちろんゲンドウも、それを期待していた。
 
               新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
 
                       「運命の転輪」   たくさん作
 
                            −第13回−
 
 
『出撃を許可する』
 双方向回線で、ゲンドウが声がプラグ内にも伝えられた。
 インダクションレバーを握る手に、思わず力が入るレイ。
『総員、第一種戦闘配置!』
 ミサトの号令で警戒態勢が、戦闘配置に移行された。
 ケージ内では整備員達が発進の準備に走っているが、すでに零号機の起動は済んでいて、それほど手間はかからない。使徒の近接を待ち受けるだけの、時間的余裕もある。
『零号機、発進っ!』
 急激な加速に、身体がインテリアシートにめり込む。
 零号機が、轟音と共に地上へとうちだされていった。
 
 
 
32
 
 発令所スクリーンに映し出されたのは、第伍の使徒。
『目標は現在、芦ノ湖上空』
 ピラミッドの底面同士を合わせたような巨大なクリスタルが、宙に浮いていた。
「あれま。この格好で、どんな攻撃をして来るのかしらねぇ」
 外見からではそれは全く予測できない。
 ミサトは、レイを第三新東京市郊外に配置して、目標の近接を待ち受ける態勢をとらせた。
「……レイ、まずは遠距離攻撃で様子をみるから、それまでは、隠蔽したままで待機。いいわね」
『了解』
「日向君…合図したら、第5と第6の兵装ビル群のミサイルを全弾発射。その次が列車臼砲、そんでもって次がエヴァ零号機による攻撃…この手順で行くわよ。いいわね?」
 ミサトは、振り返る。
「リツコ。初号機の出動準備、どう?」
「シンジ君なら、すでに搭乗を完了してるわ。あと、120秒で準備完了」
「出撃準備が整ったら、そのまま待機でよろしく。では、まずはミサイルからよ」
 ミサトは、嬉しそうに舌なめずりした。
「攻撃開始っ」
 
 兵装ビルが、一斉に火を噴く。
 放たれた数十本のミサイルは、一旦ばらばらの方角へと向かう。それから次第に目標へと軌道を修正して、目標を押し包むように進む。
 やがて噴煙が一点に集まって爆発が、目標を包んだ。
 その凄まじい爆発も、使徒相手では小手調べにしかならないことをネルフのスタッフは承知している。だが、数十本もの大型ミサイルが、ほぼ同時に爆発すると、その相乗作用からこれはもしかしたらと期待してしまうほどの爆発となった。
 やがて爆煙が晴れて、使徒がその健在な姿を見せる。
 まるで何事もなかったかのように第三新東京市上空へと侵入してくる。
「やっぱりね」と、つぶやきつつもその前にチッという舌打ちをしてしまうミサト。
 段取り通り、次の攻撃にうつる。
「次!」
 独12式自走臼砲が、トンネル内からその姿を見せた。
 発射されたビーム、目標へと向かう。だがビームは目標の手前ではじかれてしまった。そして…。
「目標内部で高エネルギー反応っ!円周部を加速っ!」
「何ですって?」
 使徒から加粒子砲がうちだされる。
 独12式自走臼砲は閃光に包まれ、一瞬にして蒸発してしまった。
 
 
 一方、ケージでは出撃準備を終えた初号機が待機していた。
 発令所のスクリーンに、待機するシンジの姿が映し出される。
 シンジの側からも、マヤとリツコの姿が見えているはずだ。マヤは、声がマイクに入らないようにリツコに囁いた。
「先輩。シンジ君、なんだか落ち着かない様子ですね。これまでに2度の実戦を経験していても、やはり緊張するんでしょうか?」
「違うわね…きっとレイを心配してるのよ」
 すでに攻撃が始まっていて、指揮をしているミサトはシンジに気を回している余裕はない。誰かが、シンジの緊張を解きほぐしてやらなければならなくて、リツコはシンジに話しかけた。
「シンジ君。今回の装備に、若干の改装がしてあるから、今のうちに説明しておくわね」
『なんですか?リツコさん』
「パレットライフルの先端に、プログレッシブナイフを装着できるようにしておいたのよ。要するに銃剣ね」
『なんだか、ミサトさんが好きそうな武器ですね』
 シンジは苦笑した。リツコも苦笑で応える。
「これで中距離の射撃戦から、突撃、近接格闘戦に遅滞なく移行できるわよ」
『そうですか。練習しておいてよかっ…』
「レイッ!」
 ミサトの悲鳴が、発令所に響いた。
 ただならぬ響きに振り返るリツコとマヤ。
 視界に入ったスクリーンには、使徒の加粒子砲を必死に避ける零号機の姿が映っていた。
 

 第伍使徒戦、序盤です。
 いかがでしょう?

Shinkyoの感想でございます

レイィィィィッッツ!!!

 

やはり歴史は繰り返すんでしょうか?

次回へ続く(笑)


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