33
 
「目標内部で高エネルギー反応っ!円周部を加速中ですっ!」
 絶叫にも似た青葉の声が、ミサトの耳朶を打った
「何よ!あんなところからでも届くっての?」
 振り返ったスクリーンには、零号機が映っている。使徒は、そこからでは点にしか見えないほどの遙か彼方だ。
「避けて、レイッ!」
 声が届く前に、零号機は屈み込んだ。
 加粒子砲の直撃を受けた兵装ビルが、一瞬のうちに融解する。直撃こそ避けたものの、凄まじい輻射熱に包まれた零号機の塗装が沸騰した。
『きゃぁぁぁぁ』
『初号機、発進しますっ!』
 レイの悲鳴に反射的に発進するシンジ。
 それは独断による勝手な行動であったが、ミサトはそれを良しとした。
「シンジ君っ!零号機の救出、急いでっ!」
 
 
               新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
 
                       「運命の転輪」   たくさん作
 
                            −第14回−
 
 
 投げ出されたように倒れる、零号機。
 外装はどろどろに溶けて、すでに形をなしていない。
『最終安全装置、解除っ!』
 地上に解き放たれるやいなや、シンジは初号機を走らせた。
「レイッ!レイッ!レイッ!」
 エントリープラグのモニターに映し出されたのは、倒れ伏した零号機。いくら呼びかけても返事がない。シンジは必死の思いで街を走った。
『よけて!シンジ君っ』
 ミサトの声に反射的に伏せるシンジ。初号機の代わりに第三新東京市のビルが一つ、融解し蒸発する。
「うわっち!」
 初号機も、加粒子砲の高熱に包まれたが、勢いがついていたために一瞬で熱圏から逃れる。シンジは、立ち止まらずそのまま零号機へと駆け寄った。 
『さらに高エネルギー反応っ。第三射、来ますっ!』
 青葉の声が、双方向回線を通じて聞こえてくる。
 シンジは焼けこげた零号機を抱えると、地上に口を開けたゲートへと頭から飛び込んだ。
 直後、ゲート周辺のビルが加粒子砲の直撃を受けて融解した。
 
 
 ゴォォォォォドガッ!
 衝撃がジオフロントを揺すった。
 地上から落下して、ケージに頭から突っ込んだ形で倒れる初号機と、零号機。クレーンやフェンスなどの地下設備が飴のように曲がり、崩れ落ちる。
「……レイッ」
 シンジは、全身の苦痛を無視して零号機へと手を伸ばした。
 装甲を引き剥がしてエントリープラグを、引っこ抜く。
 そぉっと床に下ろすと、今度は自分のエントリープラグを排出。
 焼けた零号機のエントリープラグに、シンジは駆け寄るとハッチに手を伸ばした。
「あちっ」
 その表面は焼けていた。その熱さに一瞬手を引っ込めたシンジだが、歯を食いしばってレバーを握りしめた。
 シュュュと焼けていくシンジの手のひら。
 肉の焼ける臭いが漂う。やっとレバーがまわりハッチが開く。
 中を覗くと、暗がりの奥に白い身体がほのかに見える。レイだ。
「レイッ!」
 呼びかけるシンジ。
「………」
 返事はない。だが、白い身体がわずかに身じろぐ。
「レイッ」
 熱気のこもる筒の中に踏み入ってレイに触れる。焼けこげたシンジの掌は、レイの感触を正しくは伝えてくれなかった。
「…………………お兄ちゃん」
 顔を上げたレイが見たものは、眦に涙を貯めるシンジ。
「よかった…」
 レイは両手を伸ばすと、シンジの手をとった。触れた感触の違和感に視線を下ろすとプラグスーツが破れて両手が露出している。さらにその掌は、酷い火傷を負っていた。二度から三度近い程度の熱傷である。
 レイはシンジの手を、苦痛を与えないように両手でそっと包んだ。そして頭を下げて癒そうとするかのように唇をその手につけた。
 
 
34
 
「攻守ともにほぼパーペキ。まさに空中要塞ね!で、問題のシールドは?」
 作戦課第2分析室 兵棋パネルには第三新東京市の地図が示され、その中央には、使徒を示す菱形のシンボルマークが浮かんでいる。
「現在、目標は我々の直上、第三新東京市零エリアに侵攻、直径17.5メートルの巨大シールドは、ジオフロント内ネルフ本部に向かい、穿孔中です」
「敵はここ、ネルフ本部に直接攻撃をしかけるつもりですね」
 日向のコメントに、ミサトは不敵な笑みを見せる。
「しゃら臭い……で到達予想時刻は」
「明朝午前0時6分54秒です。その時刻には22層全ての装甲防壁を貫通してネルフ本部へ到達するものと思われます」
「あと、十時間足らずか」
「で、初号機、零号機の各機は?」
 スピーカーから『初号機は、問題なしよ』と、ケージのリツコから返事が返ってくる。『零号機も損傷は装甲だけ。あと2時間で換装作業を終わるわ』
「初号機、零号機パイロットの様子はどう?」
「ファーストチルドレンは問題ありません。サードチルドレンの両手ですが2度の熱傷を負っています。しばらくは手が不自由ですね。エヴァの操縦はシンクロモードなら可能ですが、インダクションモードでの操作は難しくなります」
 モニターに映し出された病室では、包帯を両手に巻いたシンジに、レイが甲斐甲斐しくも世話をしていた。食事を一口ずつシンジの口元に運んでいる光景が微笑ましい。
「シンジ君をメインに据えた作戦は無理か……状況は芳しくないわね」
「白旗でも揚げますか?」
「その前に、ちょっちやってみたいことがあるの」
 
 
 司令執務室。
 ミサトは直立不動の姿勢で、ゲンドウに向かっていた。
 だが進言に応じたのは冬月である。ゲンドウは両手を組んだまま、無言でミサトを見据えていた。
「目標のレンジ外。超長距離からの直接射撃かね…?」
「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー収束体による一点突破しか方法はありません」
「マギはどう言っているね?」
「はい。スーパーコンピューターマギによる回答は、賛成2、条件付き賛成が1でした」
「勝算は8.7パーセントか」
 考え込むようにつぶやく冬月にミサトは「最も高い数値です」と付け加えて決断を即した。ゲンドウがここで決断を下した。
「反対する理由はない。やりたまえ、葛城一尉」とゲンドウ。
「はい」
………
……
「しかし、また無茶な作戦を立てたものね。葛城作戦部長さん」
 意気揚々とエスカレーターに乗り込むミサト。後に続くリツコはミサトの立てた作戦を茶化しているかのように、その役職姓名を読み上げた。ちなみに、ミサトは第三、第四使徒との戦いの功績を認められて作戦部第一課長から、作戦部全体を統括する部長へと昇進している。編成表では、さらに上席に『作戦本部長』という役職がおかれているが、現在そのポストは座る者もないままに空けられていた。
「失礼ねぇ、残り9時間以内で実現可能、おまけに最も確実なものよ」
「これがねぇ……」などと危惧して見せながらも、リツコはあまり心配していない。ミサトの立てる作戦が、無茶ではあっても無理ではないことを理解していたからだ。
「…うちのポジトロンライフルじゃ、こんな大出力に耐えられないわよ。どうするの?」
「決まってるじゃない、借りるのよ」
「借りるって、まさか」
「そ、戦自研のプロトタイプ」
 
 
35
 
 中央病院第3病棟
 シンジはベットに横になり、レイはその傍らで静かに座っていた。
 両手の熱傷が酷いために、シンジは痛み止めを注射され眠っている。
 寝返りをうつシンジ。
 レイはシンジの寝乱れた毛布を、そっとかけ直した。
 病室のドアが開いて「どお!調子は?」と、大声で踏み込んできたミサトを、レイは絶対零度の視線で迎えた。
 その、心臓がすくむほどの冷たさに、ミサトは「な、何よ!」と、たじろいだがシンジが眠っているのを見て素早く状況を理解した。
「ごめんちゃい」
 両手を合わせてレイの許しを請う。
 レイは、もう興味がないかのように表情を消した。
 眠るシンジをのぞき込むミサト。
「シンジ君。いい顔で、眠ってるわね〜」
「さっきまでとても痛がってました。薬で痛みを和らげているだけです」
 レイは反発して見せた。シンジが味わった苦痛を軽く考えていると思ったのだ。だがミサトは優しい表情でシンジの額に、中指をつける。
「そういうことじゃないんだけどな」
「……」
「わたしが言ってるのはね。痛いとか辛いとか、苦しいとか言いながらも、そんな中で何をなすべきかをちゃんと考えてて、やらなきゃならない時には躊躇わずにそれをやる。そんな男の人の顔をしているって言ったの」
 ミサトの評価をどう受け止めて良いかわからないレイは返す言葉もなかった。
「……」
 レイとミサトは、シンジの顔をしばらくの間、眺めていた。そして
「ねぇレイ?手伝って欲しいことがあるんだけど。いい?」
 
 

 
 運命の転輪、第14回をお送りします。

Shinkyoの感想でございます。

ラヴラヴデスカ、コレ?

いいなあ、シンジ、レイに食べさせてもらうなんて(爆)。

とまあ、冗談はこのくらいにして、

たくさんの文章は上手いですな。キャラクターの動きがよくわかるような気がするのですが・・・

どうしてでしょう。う〜〜〜〜む、よくわからんです(爆)

「修行せいっ!!」ってことでしょうか?


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