36
 
1730時 (午後5時半) 碇、綾波、両パイロットはケージに集合
 
「わぁぁぁぁぁぁっ!」
 ネルフ本部セントラルドクマに、少年の悲鳴が響き渡った。
 その声はケージにも届き、整備士達は作業の手を止めて声のした方向へと振り返る。
 血相を変えたミサトと、保安部員達がキャットウォークを駆ける。ミサトは走りながら銃を抜いた。
 更衣室のドアをドカンッと蹴開けて突入。
「何があったの!」
 銃口を向けた先には、コンクリートの壁に背中を押しつけて、何かから逃れようとしているシンジの姿があった。
 何者に襲われたのか上半身はすでに裸。下半身も、脱がされかけたズボンを、包帯を巻いた両手で必死になって押さえている。
 シンジは怯えきった表情で、ミサトに縋り付いた。
「ミサトさん助けてっ!レイがっ!」
 シンジに襲いかかろうとしていたのはレイだった。両手にシンジのプラグスーツを提げて、にじり寄ってくる。
「葛城一尉…そのまま、お兄ちゃんを捕まえていてください」
「ちょっと、ちょっと…何があったの。わかるように説明してよ」
 どうやら大事ないようだった。ほっと息をついたミサトは銃をホルスターへ、保安部員達は小銃に安全装置をかけて銃口を天井へと向ける。
「僕は、いいって言ってるのに!」
「ダメ。その手で、着替え、できるはずない。手伝う…」
「はぁ?」
 あきれ果てたミサトは、ポリポリと頭を掻いた。
「シンジ君…あのね、今とっても忙しいのよ」と、シンジの両肩に手を乗せるミサト。一呼吸おいてニヤリとほくそ笑み「時間もないことだしぃ…観念して、レイの手を借りてちょうだい」と告げて更衣室のドアを閉じた。
「ええっ!そんなミサトさん、ドン!ドン!ドン!…ここを開けてくださいよっ!…ああっレイっ、ダメだよ、そんなところ触っちゃ。ああっ、ちょっと、そこは勘弁してよっ、ダメだってばぁ、待って、うわっ、握っちゃダメだって、ああっ…ああっ!………」
 
 
               新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
 
                       「運命の転輪」   たくさん作
 
                            −第15回−
 
37
 
1800時 (午後6時) 初号機及び零号機、起動
1805時          発進
 
 プラグスーツに着替えたシンジが、男子更衣室から出てくる。
 ふらふらした足取り、表情は憔悴しきっていて瞳からは精気が失われていた。
 それでも、なんとか初号機のケージにたどり着く。
「シンジ君。……どうしたの?元気ないわね」
 エントリープラグの最終調整をしていた整備員、洞木コダマがシンジを呼び止めた。
 うつろな視線をシンジは、コダマへと向ける。
「大丈夫ですよ、わかってます。他にパイロットいないんでしょ。乗りますよ。乗れば良いんでしょ。…目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れて…」
「だ、大丈夫なのかしら…」
 コダマは、懸念しつつも、シンジのエントリーを手伝った。
 インテリアシートに腰掛けてもシンジは、何やらぶつぶつ言っている。聞き耳を立ててみると「もういいじゃないですか、勝ったんだから」とか「どうせ僕なんか、いらない子供なんだ」などと呟いていた。
「ちょっと、シンジ君」
 うつろな眼差しである。
「ちょっとってばっ」
 コダマはシンジの身体を前後に揺すってみた。シンジの頭が、カクカクっと前後に揺れ驚いたシンジが「うわっ!」と声を上げる。
「…こ、コダマさん…って、ここはどこ」
「ね、本当に大丈夫?赤木博士、呼ぼうか?」
 シンジはぷるぷるっと首を振った。
「いいですよ、ホントに何でもありませんから…大丈夫です」
「何か困ったことがあったら、お姉さんに相談してよね。何かあったの?」
 同い年の女の子にパンツを脱がされ、全裸を見られたあげくに、着せ替え人形されました…などとは口が裂けても言えない。シンジは「あははは」と苦笑するしかなかった。
 いつものように『生きて帰ってきて、必ず返すという約束で』ガムをコダマから借り、数回噛んでプラグのハッチへと張り付ける儀式をする。
『零号機、プラグ挿入!』
 ケージ内に響くアナウンス。プラグが挿入されて零号機が起動する。
「こらっ、洞木、何もたもたしてるっ!」
 整備長の怒声にあわてたコダマは「じゃ、シンジ君。がんばって、しっかりねっ」と言葉をかけて、プラグのハッチを閉じた。
 
 
38
 
1830時 (午後6時半) 双子山仮設基地到着
2030時 (午後8時半) EVE専用改造陽電子砲 準備完了
 
「本作戦における各担当を、伝達します」
 照明車の光を背景に、ミサトはシンジとレイに向き直った。シンジもレイもプラグスーツのままで待機していた。
「レイ…零号機で砲手を担当」
「……はい」
「シンジ君、初号機で防御を担当」
「はい」
 リツコが説明を始めた。
「これは、シンジ君が両手を負傷してインダクションモードでの操作が出来ないからよ。今回は、より精度の高いオペレーションが必要となります。シンクロ率ではシンジ君の方が高いけど、レイの方が射撃の成績では優れているわ。陽電子は、磁場、重力…」
「要するに…はずさなければいいのね」
 レイに折角の解説に水を差され、リツコは不機嫌そうに眉を寄せた。
「そうよ。コア一点のみを打ち抜いて。だけど一度発射したら、冷却や再充電、ヒューズの交換などで、次に撃てるまで時間がかかるわ…」
「後がないのは、いつもと同じですね」と、今度はシンジが口を挟む。「僕が、レイを護ります」
 言うべき事はもうない。リツコは沈黙した。
 二人とも、なすべき事はわきまえている。改めて念を押す必要は、なかった。
 ミサトが厳かに告げる。
「時間よ、二人とも」
 
 
39
 
2330時 (午後11時半) 屋外用プラットホーム
 
 エヴァ搭乗前。レイとシンジは並んで夜空を眺めていた。
 街から全ての灯りが失せ、星と月の輝きが夜空を彩る。
 なかでも満月の蒼い光は、一際美しかった。
「もしかすると、これで死ぬかも知れないね」
 シンジは、怯えたように自分の身体を抱いた。
「どうして、そういうこと言うの?」
「なんでだろうね。これまで、誰にも言ったことはなかったのに…出撃の前はいつも思うんだ、これで死ぬかも知れないって…きっと、僕って臆病で意気地なしなんだよ」
 レイはシンジに、柔らかくて優しい眼差しを注いだ。
 これまで、誰にも口にしたことがないという弱音を、自分には吐いてくれた。そう思うと心が暖かくなる。ついにシンジの側に立てた。そんな気がして嬉しかった。
「お兄ちゃんは死なないわ。わたし、はずさないもの」
 気がつくとシンジが、レイを盗み見ている。シンジの視線がなんだかこそばゆい。
「レイは、何故これに乗るの?」
 零号機を見上げるシンジ。
 レイはしばらく考えて「護りたいから」と答えた。
「みんなを?」
 首を振るレイ。
「お兄ちゃんを」
「僕なんか」
「だって、お兄ちゃんしか、わたしにはいないもの」
「僕しかいないって…」
 レイは話を打ち切るように告げた。「さ、時間よ、行きましょ」
「…」
 蒼銀の月光をまといながらレイが立ち上がる。
 その姿は、月の女神の降臨を描いた絵画のようだった。
 
0000 作戦行動開始
 
 
 

 
 運命の転輪 第15回をお送りします。
 いかがでしょうか?
 いよいよ次回は、戦闘開始です。

Shinkyoの感想でございます

最近、たくさんが汚染されているような気がする(笑)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何に?

よく考えたら、この『運命の転輪』も萌へる設定なんですよねぇ。

だって、『お兄ちゃん』ですよ『お兄ちゃん』『お兄ちゃん』といったら・・・・(以下校閲より削除)

って、言ってる自分が一番ヤバイかな。あはははははは。

最近、試験前にもかかわらず、某ゲームをやってしまった後遺症でしょうか。

しかし、その程度のことで逝っちゃうなんてシンジもまだまだですな(謎)

次回はいよいよ、戦闘開始。どのような展開になるのか楽しみです(ニヤリ)。


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