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「作戦、スタートです」
 日向二尉の報告を合図に、屋島作戦が発動された。
『レイ、日本中のエネルギー、貴女に預けるわ。がんばってね』
 レイは軽快に「…はい」と返事すると、零号機にポジトロンライフルを構えさせて伏せ撃ちの姿勢をとった。
 ヘッド・マウント・ディスプレーに映る使徒。
 インダクション・レバーを小さく操作して、使徒と照星と照門とを重ね合わせる。
「零号機、射撃位置につきました」
 レイの報告に、ミサトは号令で応える。『第一次接続開始』
 双方向回線を通じて移動指揮車の緊迫した様子が洩れ聞こえてくる。だがプラグの中は寂しさを感じるほどに静かで、独り取り残されているかのような孤独感がある。使徒も置物のように動かない。レイは、そばにいるはずのシンジ…初号機を探した。
 楯を構える初号機の背中が、すぐにみつかる。
 シンジは気勢を充実させて、いつでも動けるように待機していた。
 その背中を見て思う。絶対にはずせない。なんとしても命中させなければならない。
 シンジの出番を作ってはいけないのである。使徒の加粒子砲に楯が耐えるのは、10秒前後。だが銃身の冷却、再充填…再発射の準備には20秒かかる。もし第一射をはずせばこの足りない時間は、シンジが己の身を挺してつくることになる。
『温度安定問題なし』
『陽電子流入順調なり』
 レイは、ポジトロンライフルを構えなおす。
『第二次接続』
『撃鉄を起こせっ』
 槓桿を引いて撃鉄を起こし、ヒューズを装填する。
『電圧発射点まで0.2』
 引き金に軽く指をかけて、エネルギー充填と誤差修正とが終わるのを待つ。
『第七次最終接続』
「すぅ、はぁ、すぅ…」
 LCLを吸い、吐く。シンクロした零号機が、レイのわずかな呼吸動をもトレースしている。
『全エネルギー、ポジトロンライフルへ』
 意識が集中しはじめると、次第に不安も気負いも消えていく。何も考えない。ただ見えるのは使徒。構えるのはライフル。指にかかるのは引き金。
『最終安全装置解除っ!』
 人差し指が、ポジトロンライフルの安全装置を弾いた。
『8…7…6…5…4』
 使徒のスリット内から、輝きが洩れる。
『目標に高エネルギー反応っ!』
 伊吹マヤの声が、レイの耳を打った。その瞬間、レイの脳裏に楯を構える初号機…シンジの姿が浮かび一瞬、使徒のことを忘れさせた。
『発射っ!』
 ミサトの号令に驚いたように人差し指をたぐった。
 それはガク引きと呼ばれる、最もまずい射撃となった。「だめっ!」レイは、この初弾が外れてしまうことを、この時点で確信していた。
 光の矢は、ほぼ同時に放たれた。
 互いに向き合う閃光は、すれ違いざまに互いを押しのけ進路を変える。
 零号機をかすめた光が大地を揺るがし火柱をあげ、爆風は大地を薙ぎ、焼き払った。
『…第二射、いそいでっ!』
『銃身、冷却開始』
 槓桿を引いて焼き切れたヒューズを排出。再度構えなおして照準を合わせる。だが…
『目標に、再び高エネルギー反応』
 使徒の第二射が、零号機に襲いかかった。
 次の射撃準備に入ったレイはこれを避けようともせず、視野に広がる閃光からも紅瞳を逸らさなかった。今度はあてる。なんとしてもあてる。絶対にはずさない。それだけに集中している。
『レイっ!』
 視野を、初号機の背中が遮った。
 急増の盾が加粒子砲を受けて融解し、瞬く間に小さくなっていく。
『盾が保たない!』
 ミサトの声に、レイは唇を噛んだ。
「……お兄ちゃん」
 眉を寄せて使徒を睨みつけ、動揺を懸命に押さえて銃口を使徒へと向ける。
『まだなのっ!』
『あと、10秒です』
 充填を待つ。とにかく待つ。
「はぁ、はぁっ、はっ…」
 ついに初号機の盾が、蒸発した。
 そのまま両手を広げて、閃光に立ちふさがる初号機。
 呼吸を止めて、引き金をじわじわっと絞るレイ。
『充填終了』ほぼ同時に、撃鉄が落ちた。
 こんどこそとレイの放った陽電子の光線は、使徒の中央を貫いていた。
 
 
               新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
 
                       「運命の転輪」   たくさん作
 
                            −第16回−
 
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「お兄ちゃんっ!」
 初号機の装甲を無理矢理引き剥がして、エントリープラグを引き抜く。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃんっ!」
 かつてシンジがしたように、焼けたレバーを握るレイ。
 プラグのハッチを開けて中をのぞき込むみ「お兄ちゃんっ!」とその名を呼ぶ。
 返事はすぐに帰ってきた。
「…レイ……」
 シンジは、茹だるような蒸気の中で、シンジが気怠げに顔を上げた。
 レイの無事な姿に、うれし涙を流すシンジ。
「よかった、レイを護れたんだ…怪我はない?」
 レイはキッと唇を噛むとプラグの中を這うようにして進んで、手を火傷しているのも忘れてシンジの頬をはたく。
「なんだよ、痛いじゃないか」
 明らかに怒気をはらんだ紅瞳でシンジをみつめるレイ。低い口調で、呟くように語る。
「自分だけ痛い思いして、傷ついて、それでもわたしを気遣って我慢して、耐えて…一人だけでそんなの酷い」
「だって、レイを護るって決めたから」
 シンジにしがみつくレイ。
「護るって言ってくれるのは嬉しい。でも、わたしもお兄ちゃんを護りたい…お兄ちゃんが傷つくとわたしも痛い…だから護らせて」
「………」
 シンジは困ったように苦笑した。
「こんな時、どうしたらいいんだろう?」
 レイは囁く。
「一緒にがんばろうって、言ってくれればいいのよ」
 シンジは、きょとんとしたようにレイの顔を見つめた。
 しばらくしてようやくレイの言葉の意味が飲み込めたようだった。
「そっか……一緒に戦えばいいのか」
「そうよ」
 シンジはレイを見つめ直した。そして両手をさしだしておずおずと「一緒にがんばろか?」と告げる。
 シンジの手を取るレイ。
 返事替わりの微笑みは、月のように美しかった。
 

 第16回をお送りします。
 いかがでしょうか?
 
 次回は、ドイツから某チルドレンが来日いたします。

Shinkyoの感想でございます

『一緒にがんばろうか?』、う〜む、いいですね。Let's二人三脚ですな(謎)。

でも、シンジとしましてはレイにはやっぱり無理させたくないんでしょうね。

私だったらそうですよ。だから、そうに違いないです。

次回はドイツか某チルドレンですか。カヲルかな?

ははははははははは。アスカ? 誰それ(爆)


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