『目標は依然健在。現在も第三新東京市に向かい進行中』
『航空隊の戦力では足止めできません』
「総力戦だっ!厚木と入間も全部あげろ。出し惜しみはなしだ、なんとしても目標を潰せ」
 大型のミサイルが次々と放たれ、砲爆撃が繰り返される。
 だが、使徒はすべてを蹴散らしながら前進を続けた。
「何故だっ!直撃のはずだ」
 国連軍の指揮官がテーブルをたたき壊すほどの勢いで拳を振り下ろす。
「ダメだ、この程度の火力では埒(らち)があかん」
 
 冬月がつぶやく。
「やはりATフィールドか?」
 ゲンドウが悠然と答える。
「ああ、使徒に対し通常兵器では役に立たんよ」
 
 ホットラインが鳴った。
 国連軍指揮官は受話器を取ると畏まったように姿勢を改めた。
「はっ、はっ。わかりました、予定通り発動いたします」
 受話器を置いて言う。
「航空隊を下がらせろ。NN地雷に点火」
 
 NN地雷が点火され、すべてが閃光に包まれた。
「やったあ!」
 怪物が、太陽のような輝きに飲み込まれる。
 幕僚の一人が、ゲンドウを振り返った。
「残念ながら、君の出番はなかったようだな」
『衝撃波来ます』
 モニターが砂嵐で満たされる。
「目標はどうなった?」
 伊吹マヤは、観測装置を映像モードから、電波観測モード、重力波観測モードへと切り替えてみた。だが、どれも数値を示していない。
『電波障害のため確認できません』
「あの爆発だ、けりはついてる」
 ところが、エネルギー探査モードに切り替えると…反応があった。
『爆心地にエネルギー反応』
「なんだとぉ!」
『映像、来ます』
 映されたのは使徒の姿だった。いくらかは傷ついたように見えるが、その程度でしかなかった。
「くっ、我々の切り札が」
「化けもモノめっ」
 力無くうなだれる指揮官達。
 そんな中、冬月は科学者としての目で使徒の観察を続けていた。
「自己修復中か」
「そうでなければ単独兵器として役に立たんよ」
 光線で観測ヘリが撃墜され、映像が途切れてしまう。
「ほお、大したモノだ。機能増幅まで可能なのか」
「おまけに知恵も付いたようだ」
 冬月は、何度目かのため息をついた。
「再度侵攻は時間の問題だな」
 
 
               新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
 
                       「運命の転輪」   たくさん作
 
                            −第3回−
 
 
「今から、本作戦の指揮権は君に移った。お手並みを見せてもらおう」
「碇君。我々の所有兵器では目標に対して有効な手段がないことは認めよう。だが、君なら勝てるのかね?」
 国連軍指揮官に向かって不敵に笑うゲンドウ。眼鏡のブリッジを押し上げながら言った。
「そのためのネルフです」
 退場していく国連軍指揮官達。
「国連軍がお手上げか。碇、どうする?」
「初号機を起動させる」
「だが、パイロットがいないぞ」
「問題ない、もうすぐ予備が…」
『技術局一課 E計画担当の赤木リツコ博士 至急作戦部第一課 葛城ミサト一尉までご連絡下さい』
 本部内を全館放送でアナウンスが流れる。それを聞いたゲンドウは腰を上げ、冬月は眉を寄せた。
「碇…葛城一尉が帰ってきたようだぞ」
「ああ。冬月、後を頼む」
 リフトで降りていくゲンドウ。冬月は見送りながら苦笑した。
「7ヶ月ぶりの対面、か」
 日向マコトが振り返る。
「副司令っ!目標が、再び移動を始めました!」
「よし、総員第一種戦闘配置」
 
 
 
 扉が閉じられると、その巨大な空間は暗闇に包まれた。
「あの、真っ暗ですよ」
 その言葉に反応したかのように突然、照明が灯る。
 シンジの目前に巨大な物体が存在していた。
「あ。か、顔?巨大ロボット?」
 説明を求めてパンフをめくる。だが赤木リツコは冷たい口調で告げた。
「探してもそれには載ってないわよ。…人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン。これはその初号機。我々人類の最後の切り札よ」
「これが、エヴァンゲリオン?」
「そうだ」
 声の方向に振り返ると、父の姿があった。
「…久しぶりだな、シンジ」
 高いところから見下ろしてくる父に対して、シンジは最初から喧嘩腰で対した。
「父さんっ!いきなり呼びつけて僕に何の用さ!」
「これに乗れ。そして使徒と戦え」
「こんどは僕?どうしてさ?」
「他の人間には無理だからなぁ」
「レイは、どうしたのさ?どこにいるのさ」
「今は、病院だ」
「病院?なんで病院なんかに。…何があったのさ!レイは無事なの?」
「安心しろ。重傷だが、命に別状はない。だが、おまえが乗らなければレイを乗せるしかない」
「怪我をしてるんなら、そんなことさせられるはずないじゃないかっ!」
「ならば乗れ、乗らないのなら帰れ」
 ケージ内は緊迫していた。葛城ミサト、赤木リツコは息をのみ、整備員達は手を止めてシンジがどのような決断を下すかを見守っている。
「くっ…………父さんは…父さんは、いつだってそうだっ!なんでだよっ、どうしてそう勝手なんだよっ!忙しくて育てられないからって、先生に僕達を預けたくせに、夜中にふらっと帰ってきて、人が眠ってるところをたたき起こす。それで『寿司を買ってきた、喰え、喰わないなら寝ろ』なんて言う。夜中の2時だよ、2時。そんな時間にどうしてものが食べられるのさ。それから授業参観だって、先生に来てもらうから来なくていいって言ったのに突然やって来て…あのあと僕は、みんなからおまえの父親はヤクザの親分だろって言われて大変だったんだからねっ!チェロの演奏会の時だって前もって言ってくれれば練習しておいたのに、当日になって『出演しろ、でなければ帰れ』って…中学の入学式の時だって……」
 シンジの口からあかされる悪行の数々。
 葛城ミサトそして整備員達は、ゲンドウの意外な姿に唖然…というより慄然としてしまった。結局、子煩悩な父親なのだ。それがシンジから悪し様に言われるような結果となってしまうのは不器用だからである。
 なんとも微笑ましい。子煩悩であること、そして不器用であることが。
 だが、それは彼らが抱いていた冷酷無情とか、極悪非道といったゲンドウのイメージとは、いささかかけ離れていた。そのギャップが理解に苦しい。
「…それから、夜中に帰ってきて人の布団で眠るのもなんとかしてよっ。こっちは心臓が止まるほどびっくりするんだからね」
 シンジの叫びにミサトは思わず同情していた。
「そりゃあ、寝起きにあの顔はきついわねぇ」
 ゲンドウは顔を真っ赤にしていた。ひたいには汗が浮かんでいる。
 それを見た赤木リツコは「かわいい」とつぶやいたりし、それを聞いたミサトは友人をまじまじと見つめながら全身を硬直させてしまうのである。
 
 
 
『冷却終了』
『ケイジ内、すべてドッキング位置』
 
「これが、インダクションレバー。操縦桿みたいなものね」
 エントリープラグでは、若い女性の整備員が付き従っていろいろと説明してくれた。
 葛城ミサトや、赤木リツコほどではないが、整った顔立ちををしている。薄汚れたツナギと、無造作に束ねた髪、そしてすっぴんの笑顔…年上の人なのに、なんだかかわいいと感じてしまう。
「これが、インターフェイスよ」
 髪飾りのようなヘッドセットを頭に取り付けてくれる。
 胸の膨らみが目前に突きつけられて、ドギマギしながら視線を逸らすと名札が見えた。
 所属 技術局三課 E計画整備班 技術三曹 洞木コダマとある。
 やがて作業を終えると洞木コダマは、改めてシンジの顔を見つめた。
「……」
 じっと見つめられてシンジの頬がうっすらと赤くなる。
「な、何ですか?」
「これ…」
 差し出されたのはガムだった。
「あ、どうも」
 包装を剥いて口の中に押し込んでくれる。ミントの味がする。
「言っておくけど、貸してあげるだけよ。あとで、返してね」
「……」
 その意味が分からないシンジは、なんてケチな人なんだろうと思ってしまった。
 
『停止信号プラク排出終了』
 
「出して…」
 コダマが手のひらを突きつける。
 シンジはガムを口の中からつまみ出すと、恐る恐るその手のひらに載せた。コダマは、そのガムをエントリープラグのハッチにぺたぺたと張り付ける。
「無事に帰ってこれるようにという、おまじないよ」と教えてくれた。テストパイロットの習慣だと言う。
「じゃ、いってらっしゃい」
 コダマがウィンクをするとエントリープラグのハッチが閉じた。
 シンジは、狭い空間に一人きりとなった。
 
『エントリープラグ挿入!』
『第一次接続開始』
『エントリープラグ注水』
 突然足下から水が、あふれ出てくる。
「うわっ、な、なんだこれ!」
『心配しないで。肺がLCLで満たされれば直接血液に酸素を取り込んでくれます』
 そんなこと言ったって!
「ガボ、グボ、ゲボ……ブハァ…………うげ、気持ち悪い」
『我慢なさいっ、男の子でしょう!』
 電源が接続され、プラグ内の壁面に外の光景が映し出された。
『A10神経接続…異常なし。初期コンタクトすべて問題なし』
 
「シンクロ率……55.1%」
 マヤは驚いたように数値を読み上げた。
「いけるわ」
 リツコの言葉にミサトは強く頷いた。
「発進準備!」
 

 
 さらに続きです。
 ちょっと長めに…どうでしょうか。

Shinkyoの感想でございます。

ナイス、ゲンドウとしか言い様がないですね。

こんなゲンドウを何時かは書けるようになりたいです。

しかし、たくさん、スピードが速いですねぇ。

見習いたいものです。


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