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「頭蓋装甲の貫通孔、顎部拘束具の破損、左腕装甲の圧壊…急激な起動によるアンビリカルケーブルの皮膜内断線、使徒の自爆による装甲外面の融解…細かい損傷を含めると計8522カ所の破損が認められます。交換が必要な部品の数は5856個です」
リストを読み上げる伊吹マヤ。
赤木リツコは渋い顔をしながらため息をついた。ケージに収められたエヴァンゲリオン初号機を見上げながら「お金が…かかるわね」と。
「零号機の修理、今回の戦闘で損壊した兵装ビルの補修も含めると…途上国の年間予算にも匹敵しますね」
「生き残るための必要経費とは言え、どこかを削って帳尻を合わすというわけには行かない額ね」
「はい。やはり司令は、その件で?」
「ええ。今、委員会と折衝中よ」
「初戦で、これですからね」
ケージ内に、焼けこげた装甲部品が山積みにされていた。
地上では、ビルが戦闘の余波で倒壊し瓦礫の山が出来ていて、使徒が自爆したところでは大きなクレーターが出来ている。
「次は、もう少し上手く使えるようにしたいところね」
エヴァの傍らには、空のエントリープラグが置かれていた。
「でも…」
マヤはおそるおそる、心配を告げた。
「シンジくん、乗ってくれるでしょうか?」
新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
「運命の転輪」 たくさん作
−第4回−
9
「…知らない天井だ」
シンジはつぶやいた。
どうやら、自分が寝かされているらしいことは、なんとなくわかった。
風がそよと吹き込んできて、白いカーテンが舞う。
幻想的なまでに、白い壁、さしこむ白い陽光。精神まで、漂白されてしまいそうなその風景にしばらく浸った後…ここはどこだろう?と考えた。それはどこか現実的でない、夢の中にいるような気分だった。
体を起こしてみる。
床のひやっとした感触を、素足で感じた。
ぺたぺたと歩き出して廊下に出てみると、急に安心できた。
窓から見える外の風景は、森。色彩がそこにある。現実的な感触…空気の流れや人の気配がそこにはあった。そして音…カラカラカラと音のする方に目を向けると医師と看護婦が、ベットを運んでいた。
見ると、見慣れた銀の頭髪が枕に乗っていた。
赤い瞳と視線があう。
驚いたような表情。
「えっ、レイ?」
シンジの問いかけに答えるように「……お兄ちゃん」と、か細い返事が帰って来た。
包帯で覆われた右目、右腕、体。その痛々しい姿にシンジは戸惑ってしまった。
ベットが通り過ぎていく。
我に返ったシンジが、その後を追おうとすると、目前に父の長躯が立ちはだかっていた。ひげ面が、睥睨(へいげい)するかのように、シンジを見下ろしている。まっすぐに見返すシンジ。
「とうさん」
「………」
返事はない。だが父の手がシンジの肩にポンと触れた。それは重くもなく、軽くもなくて、暖かな体温を感じさせる手のひらだった。
レイの病室。
部屋の造りはシンジのいた個室と一緒だった。
ベットに横たわるレイ。傍らに立つシンジとゲンドウ。
シンジは、安心の笑みを浮かべてレイの顔をのぞき込んだ。
「よかった、元気そうじゃないか」
だが、レイは無表情のまま。
「怪我をしたって聞いたから心配してたんだ」
この言葉にもレイは「そ?」と素っ気ない。だが、シンジは傷つかなかった。4歳の時から兄姉同然に暮らしてきたから、レイのこのような態度には慣れていたし、それに素っ気ないのは言葉だけで、実際はそうではないことを知っている。
シンジの右手がレイの頬に触れると、レイはその感触を楽しむかのように頬ずりした。
「…使徒は?」
レイのこの問いには、ゲンドウが答える。
「シンジが倒した。安心してゆっくり休め」
「はい」
「シンジ…レイを頼む」
ゲンドウはそう言い残して病室を去っていった。
扉が閉じた後も、父の背中をそこに見ていたシンジを、レイの声が呼び求める。
「お兄ちゃん…」
レイはシンジをお兄ちゃんと呼ぶ。
「なに?」
「……」
つづく言葉は、なかった。
ただ赤い瞳がシンジを、じっと見つめている。
そしてレイの左手が、シンジの手をそっと握っていた。
第4回です。
例によってとても短いですが、いかがでしょう?
Shinkyoの感想でございます
なんでこんなにゲンドウがやさしいんじゃあ〜〜〜(爆)
それに、くぅ〜〜〜〜レイ可愛すぎ(さらに爆)
「お兄ちゃん」、甘美な響きですなぁ。
妹に1人ほしいです(核爆)
まいりましたm(._.)m
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