10
 
「次は、3週間後か」
 廊下を歩きながら、ゲンドウは今後の戦いを思い描いていた。
 敵は、使徒だけではない。戦略自衛隊、エヴァシリーズ、そしてゼーレ。このまま行けば戦いは困難にして凄惨を極めることになる。鈴原トウジが脚を失い、アスカの精神が崩壊し、レイが自爆死し、加持が死んで、ミサトが悲嘆にくれる。嫉妬に狂ったリツコが自暴自棄になって、戦略自衛隊によって本部職員は皆殺しにされる。エヴァシリーズによってアスカはずたずたにされ、やがてサードインパクト。
 これらは予想ではない。すべてゲンドウが、シンジとして生きていた時に経験した出来事である。
 これらの悲劇を避けることこそが、ゲンドウの悲願であった。そして願わくばユイの復活。
 そのための手駒が今、揃いつつあった。それも最良の状態で。
 シンジは、ゲンドウが考えていた以上に人格的成長を遂げていた。
 自分が、シンジだった時と比べたら遙かに良いと言える。
 理不尽に押しつけられた戦いでも『嫌だ、できっこないよ』とは言わなかった。なんだかんだと文句をたれながらも、自分以外に出来ないのならばと受け入れて見せる気概をもっていた。
 これは嬉しい誤算だった。自分などは、傷ついたレイを見るまで自らを哀れむことしか出来なかったというのに。
 このシンジならば、レイを支え、アスカを支え、励ましながら戦い抜いてくれるのではないかと期待できるだろう。
 レイはシンジを慕っている。きっとシンジのことを想い、シンジのために戦い、シンジを支えてくれるだろう。
 幼い頃から、シンジとレイとを引き合わせたのが、よかったのかも知れない。
 いまのゲンドウには、レイをドグマでひとりぼっちにして育てることなど出来なかった。と言って直接手をかけて育てる時間を持つことも出来ずに、シンジとレイとを一緒に預けることにしたのである。
 もちろん他人に預けっぱなしにされることが、幼い心をどれほど傷つけるかは自ら体験して知っている。離れていても通じる愛情など幻想でしかないのだ。それがわかっているからこそ結果として、シンジになじられたようなやり方であったとしても、自分なりに心を示そうと悪戦苦闘して来たのだ。
「おい碇。ドイツ支部が、弐号機の移送を渋っているぞ」
 発令所では、冬月が待ちかまえていた。
 そう…アスカ。
 残念なことに、アスカとアスカの母に起きた悲劇を防ぐことは出来なかった。アスカが自分に起きた出来事を語ってくれたことなどなかったから知りようがなかったのだ。だが、アスカの心を救うべく布石は打った。
「問題ない。ドイツにはこちらから出向く」
「いいのか?向こうにはナオコ君がいるぞ」
「うっ…………か、かまわん」
「そうか。では手配させよう」
 冬月は秘書に特別機の手配をするよう命じた。
「ところで…碇」
「なんだ?」
「シンジ君を、葛城一尉が引き取ると言っているそうだが、どうする?」
 ゲンドウは、即答できない。ミサトの部屋の惨状が、まざまざと思い出される。
「……反対する理由はなにもない」
「子供達と一緒に住まんのか?」
「ああ、私は疎まれている」
 その声にはいじけた響きがある。冬月は、くくっと苦笑した。
「シンジ君に言われたことを、まだ気にしとるのか?」
 
               新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
 
                       「運命の転輪」   たくさん作
 
                            −第5回−
 
11
 
 レイは、ベットの中からシンジの手を握ったままなかなか離そうとしなかった。
「ねぇレイ、明日もお見舞いに来るからさ。今日の所は帰っていいかな?」
「いや」
 即答であった。
 だが、そろそろ日も暮れようとしている。
「でもさ、僕も今日ここに来たばかりで、住むところのこととか、荷物の整理とか、いろいろやらなきゃなんないことがあるんだ」
「わたしのところに住めばいい」
 これもまた即答だった。
「独りはさみしいの。もう嫌なの。お兄ちゃんが来てくれると嬉しい」
 シンジは救いを求めるように、ミサトへ目を向けた。
 ミサトは強い口調で告げる。
「シンジ君はね、あたしの家に来ることになったのよ」
「ダメです」
 さらに即答。
「これは命令なのよ」
 ミサトはついに強権を発動した。
「……」
 レイは悲しそうな表情をすると、シンジから顔を背けた。掛け布団の中に顔を隠して、シンジの手をそっと放した。
 だが、こんな顔をされたら、シンジの方が手を離せるはずがない。
 シンジはレイの手を握ると繰り返した。
「明日もお見舞いに来るからさ」
「……」
「ミサトさん」
 ミサトは仕方ないわねと肩をすくめた。
「レイちゃぁん。そんなにシンジ君と一緒にいたい?」
 レイの頭がコクと頷くように動く。
「そっか…じゃあさぁ、レイもあたしの家に来る?」
 レイは、驚いたように布団から顔を出した。
 その表情は、これまで誰も見たことがないような最高の微笑みだった。見ていて思わず胸が暖かくなる。
 そこへシンジも「本当ですか?ミサトさん」と笑みを向ける。
 それはショタっ気のないはずのミサトですら、女心を鷲掴みにされるような笑みだった。
 

 
 さてと…これで同居態勢が整いましたね。
 第5回をお送りします。

Shinkyoの感想でございます

みんなやさしくていいです。痛くない作品好きです。

レイが可愛いです。すごく可愛いです。

こんなLRSが書いてみたい。

たくさんの文章にくらべたら私の文章はまだまだって感じで同じところで後悔してるのが恥ずかしい。


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