15
 
「何もかも、うまく行ってるって思ったのは、僕の傲慢だったみたいだ」
 退院の日。
 レイは、シンジが笑顔で迎えに来てくれることを期待して胸を膨らませていた。だがそんな、ささやかな望みも裏切られてしまう。病室にやってきたシンジの表情は暗く、頬を大きく腫らしていたからである。
 理由を尋ねたレイへの返事が、この言葉だった。
「お兄ちゃん…何があったの?」
 シンジは、ベット横のイスに腰を下ろすとうなだれてしまった。
「クラスの人の妹さんがさ、この間の戦いに巻き込まれて怪我をしたらしいんだ」
 淡々と言葉を紡ぐシンジ。彼は、いつものような微笑みを作ろうとして、努力して、失敗した。
「それは、あなたの責任ではないのに」
 シンジはうつむいたまま首を振る。
「あなたが戦わなければ、みんな死んでいたのよ」
 再び首を振る。
「……何を、悲しむの?」
「自分が、人を傷つけてたなんて思わなかったんだ。それを知らないで、いい気になってた。エヴァのパイロットだって、みんなにちやほやされるのを喜んでいたんだ」
「そう、つらいの?」
 シンジは小さく肯く。
「つらければ、やめてもいいのよ」
 代わりに自分がエヴァに乗ればいい。レイはそう思った。
 だがシンジは、首を振った。
「僕は、逃げないって決めたんだ」
 拳を握りしめるシンジ。
「もしかしたら、これからも誰かを傷つけるかもしれない。そのせいで、ひとから恨まれるかも知れない。だけど僕は、みんなを…レイ、父さん、先生、ミサトさん、リツコさん、ネルフの人たち、学校の友達を護る。護りたいんだ。だから逃げない」
 レイは、かけるべき言葉を探した。だが、何を言ってもシンジの心には届かないような気がした。出来ることと言えば、シンジをそっと抱き寄せることくらいである。
 シンジをそっと抱き寄せて、自分の膝に頭をのせて慰めるように額を撫でる。
「それで、いいの?」
 シンジは、レイの膝の上でしっかりと肯いた。
『ピピピピピピ』
 突然鳴り始めた携帯電話。それは3週間ぶりに使徒の来襲を伝えるものだった。
 
               新世紀エヴァンゲリオン ファンフィクション小説
 
                       「運命の転輪」   たくさん作
 
                            −第7回−
 
16
 
『総員、第一種戦闘配備!』
 地上で、税金の無駄遣いと評される攻撃が繰り返されているなかで、ケージでは、あわただしくエヴァ初号機の発進準備が進められていた。
 エントリープラグのシートに座ったシンジに、整備士の洞木コダマがたずねた。
「プラグスーツの調子はどう?インテリアも、あなたの体型に合わせてみたんだけど、違和感ないかな?」
「なんだか落ち着きませんね。何も着てないみたいです」
「それでいいのよ。肌になじんでるって証拠だから…でも、シンジ君ってスタイル良いのね?」
 コダマの舐めるような視線に、シンジは恥ずかしげに苦笑した。もう、表情に陰りは見れない。ただ、頬の腫れだけが目立つ。
「どうしたのそれ」とミサトに問われ、シンジは「転んでぶつけました」と答えている。
『プラグ挿入準備…』
 アナウンスが入って、コダマはハッチを閉めようと腕を伸ばした。
「コダマさん。ガム、あります?」
「あるわよ」
「貸してください…後で返します」
 前回と同じようにコダマは、シンジの口にガムを放り込んで微笑む。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
 閉じられるハッチ。
 シンジは、インダクションレバーを力一杯握りしめた。
 
 
『シンジ君。用意はいいィィィィィィキイイイイイン!』
 ミサトの声が、あまりにも大きくてスピーカーがハウリングを起こした。
「いたた……そんな大きな声を出さなくても…ちゃんと聞こえてますよ」
 耳を押さえるシンジ。
『ご、ごめん…』
 自分が、指揮を執っての初戦闘である。ミサトは張り切っていた。
『では、シンジ君。まずは戦闘パターン『C』で行くわよ。目標を、距離400まで引きつけた上で、パレットガンを固定射…できるわね?』
 ミサトの指示に、シンジは「はい」と軽快に答えた。
 地上に、解き放たれる初号機。
 シンジは、パレットガンの安全装置を解除すると、バーストモードにセットした。
 兵装ビルに身を隠し、息を潜めて使徒の接近を待つ。
 数度の深呼吸の後…「よしっ!」。
 素早く飛び出して、使徒の中心に照準を合わせて引き金を引いた。
 パレットガンの三連射。
 素早く、兵装ビルに身を隠す。再び、飛び出して撃つ。目標との距離を一定に保ちながら、これをひたすら繰り返すのが、戦闘パターンCである。
 残念なことに劣化ウラン弾は、使徒に直撃するも効果はみられない。
 ただし、連射は三発で抑えられているので、爆煙で目標が見えなくなるという心配はなかった。
「もっと接近しないと、ATフィールドの中和は無理よ」
 リツコの声に、ミサトはすかさず方針を変えた。
『シンジ君。戦闘パターンをAに』
「はい」
 シンジはパレットガンを左手に持ち替えると、プログレッシブナイフを抜いた。
 パレットガンを使徒に向ける。今度は、連射モードにセットして、ありったけの弾をばらまく。たちまち使徒は爆煙に包まれた。
 シンジは、すかさず使徒へと肉迫。ナイフを振りかざして使徒へと突き込む。だが、爆煙の中から光の鞭が飛び出して、初号機に襲いかかった。
 間一髪のところで、パレットガンを楯にしてこれを避ける。
 パレットガンを捨てて、シンジは退いて距離をとった。
「ミサトさん!どうしたらいいですか?」
 次々と襲い来る鞭を、何とかかわしながら次の手を求めるシンジ。
『なんとか、接近戦に持ち込むのよシンジ君。ライフルの予備を出すから、パターンCで、持ちこたえて!』
「でも、これ以上さがったら街が……突っ込みます!」
『ダメよ!鞭をなんとかしない内は、不用意に踏み込めないわ』
 だが、銃撃に効果がないとなればいずれ突っ込むしかない。
 ミサトは、こんなことならば射撃訓練なんかよりも、拳法や格闘の訓練を積ませるべきだったと後悔していた。

用語解説
 
固定射…「銃の方向、高低を固定したまま行う射撃である。」

 
 各回の話と間隔があきすぎてぶつ切りになっているような印象ですね。後で間をきちんと書き足すつもりです。それと、よく考えてみると、第三使徒戦を書いてなかったんですよねぇ。要するに戦闘シーンを書くのは第四使徒戦が、初めてとなります。
 第四使徒戦、まだまだ続きますが、いかがでしょうか?

 
Shinkyoの感想でございます

私もレイに抱きしめられたい(爆)


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